みなとまち読書クラブ

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③恋と旅と気まぐれと「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」山田洋二監督 渥美清主演

 この映画は喜劇なのか、悲劇なのかと問われどうにも答えられなかったことがある。七重八重(ななえやえ)花は咲けども、48作を通じて主人公の恋は遂に実らない。しかし、山田洋二監督の人を慈しむ視点は通底しており喜劇であると私は見たい。

 その旅語りが抒情的であるように、寅さんは言語表現に独創性がある。一見、思慮深さや高潔さとは無縁であるが、女性に対する配慮は繊細で親切を施しても見返りを求めない。その美学と人の良さが恋の多さの原因になっているわけだが時折感情を抑制する場面は強い印象を残す。

 例えば花火大会の夜、その余韻に包まれるとら屋の庭先で家庭用花火に興じる面々を横目に、さくらにだけ旅立ちを告げる場面は鮮やかな対比で漂泊者の情感に打たれずにいられない。普通に考えれば、そんなときに旅立つ必要などないのだが、そこで団欒に浸るのなら旅を枕にする生活を送ることなど、なるほど出来まい。

 できれば寅さんには所帯を持って、当たり前に暮らして欲しい。しかし、そうなったらそれは寅さんなのだろうか。恋にやつれ、明日はどこ吹く風と津々浦々を行く姿は永遠の旅人でありジャンヌ・ダルクさえ唸らせる男の浪漫を背負っている。